Diary


【フランス】『ナンシー国際音楽フェスティバル①』

(2005年8月5日~15日)

Nancyphonies に参加して

ナンシーでの10日間の生活を無事に終え、パリに帰ってきました。
お天気にも恵まれ、有意義に過ごす事が出来ましたが、本当に忙しいスケジュールでした。

ロレーヌ地方のナンシーは、アール・ヌーヴォーで有名ですので、ご存知の人もいらっしゃると思います。
この新芸術が生まれた地と同時に、スタニスラス広場に見られるような貴族だけのために作られたロココ建築が展開した町なんです。
食事の帰りなどに、私たちもアール・ヌーヴォー建築の家を探して歩いたりもしました。
商工会議所などの扉やZARA(ブティック)の花柄の壁面などもユニークでしたが、さすが芸術の町だと思いました。
スタニスラス広場が町の顔に当たるのですが、見事で派手な装飾的な鉄の門が印象的でした。また写真も載せましたのでご覧下さい。
夜になると、この広場は幻想的なメルヘンの世界のようになるんです☆ とても感激しました。

「Nancyphonies ナンシー国際音楽フェスティバル」は、このような町で開催されました。
同時期に「ナンシー国際音楽アカデミー」もあり、とても充実した日々を送ることが出来ました。

フェスティバル開催時期には、ナンシー大学寮を貸して下さるので、はじめて寮生活をしました。
真紀子は、新品のピアノが入っている一番奥の部屋で、直彰は、向かいの部屋でしたが、大きな個室で自由に練習できる環境にあったので、まずは安心しました。
寮での生活は、昼と夜は決められた学生食堂で食事なんですが、各部屋に小さなキッチンがあって、冷蔵庫もあるし、おなべや食器なども少しあったので、簡単な朝食は出来ました。
ホテルと大きく違うところは、キッチンのあるところはプラス面ですが、マイナス面はベッドです。家のマットレスの3分の1位の厚さしかないマットレスなんですよ。薄いだけならいいんですが、ペコペコしていて、背中が痛くてゆっくり寝る事が出来ませんでした。
私たちはたった10日間の辛抱だけれど、『ナンシーの大学生はここでずっと何年も勉強しているんだ、みんな偉いんだなあ~』と感心してしまいました。

講習会のメンバーの中から特別に「ソリスト」に選ばれると、「ナンシー国際音楽フェスティバル」のソリストとして演奏させて頂けるというので、私たちも先生に薦められて申し込みをしたのですが、その結果、ナンシーに発つ前に、ディレクターから「ソリスト」に選ばれたという報告を頂きました。
これはちゃんと出演料も頂けるということでしたし、何よりもフェスティバルの最後を飾って演奏させて頂けるというので嬉しかったです。
ただ、受講生が200人近くもいるので、もう少し多くの人が「ソリスト」に選ばれているんだと思っていたんです。それがたったの3人だったんです!
初日にディレクターから「あなたたちがソリストですね。」って声を掛けられた時には、『日本人でチェロを持っているから分かったのかなぁ?』と思っていましたが、ソリストがたった3人で、その中の2人が私たちだったから分かるのが当然ですね。
とても温和な素敵なディレクターで、「頑張って下さいね!」とぎっしり握手してくれましたが、最初から最後まで本当にご親切にして下さって感謝しています。

「ソリスト」に選ばれたのは、私たち2人とハーピストのエヴァ・ドゥボンヌの3人でした。
他にもバイオリン、ビオラ、クラリネット、マリンバ&パーカッション部門もあるのに・・・。3人だという事を知らされて、まず思った事は、「これは大変なものに選ばれてしまった!」ということです。

この講習会には、日本からもかなり参加者がいましたが、他に中国や台湾人、そしてフランスやそれ以外のヨーロッパの人たちが集まってきていました。
初日にピアノのリウ先生が「ビッグな国際コンクール歴のある人が沢山応募している中で、「ソリスト」に選ばれるのは大変なことなのよ!それも2人が揃ってだもの、これは凄いラッキーな事よ!」とおっしゃったので、これは大変な選抜だったのだ、とその時に改めて実感しました。

まず、午前中のレッスンを終えると学生食堂で昼食を済ませ、寮に戻って、本番の準備をして、車で会場まで係りのマッチューが連れて行って下さいました。リハーサル後本番、演奏を終えるとまた寮に車で戻って帰ってきて、今度はレストランで夕食。夕食の前にレッスンのことも度々でした。真紀子の場合は、ピアノソロとチェロや室内楽のレッスンも受講しましたので、10日間で15時間以上のレッスンにも通いました。夜はコンサートに出かけましたので、大忙しの日々でよく体が持ったな、と思うほどです。でもとっても充実していました!お世話役のマッチューが本当に私たちのために良くしてくれたので、尚充実感があったんだと思います。

アカデミー開始(8月5日)の翌日にソリスト3人を集めての説明会がありました。そして、8月8日(月)、9日(火)、10日(水)、12日(金)、14日(日)と最終日15日(月)、計6回のコンサート契約を交わしました。その中の、14日の野外コンサートは雨天のために中止になってしまいましたが・・・。

コンサートはナンシーの町だけではなく、郊外のホールでもしました。ご老人たちに聴かせる企画のコンサートもありましたし、ホテルでのコンサートもありました。
初日は、老人に聴かせるためのコンサート企画で、100人程のお年寄りでしたが、皆とても音楽好きな方たちばかりで、「ブラボー」が各曲ごとに掛かりました。
この日は、地方新聞の取材があり、インタヴューで色々な質問をされました。その時の事が新聞に詳しく掲載されて、2人のデュオの演奏中の写真が代表で載りました。演奏会批評も載りましたが、とても褒めて頂けたので、本当に嬉しかったです。
9月にCD制作のために日本に行く話まで新聞の記事になってしまったんです!何故この曲目にしたのか、などの質問からCDの話をしたためなのですが、何から何まで文字になっているので驚きました。
色々な方から、「昨日の新聞の記事見たよ!」って声掛けられた時は、嬉しかったです♪

今パリに帰ってくると、どのコンサートのことも記憶が蘇ってきて胸が熱くなってきます。皆さんのとっても温かい拍手の中で演奏させて頂けたことを心から感謝しています。特に、ご老人に聴かせる機会が今まであまりなかったので、印象に残りました。
涙を流しながら握手して下さった、今は車椅子生活の元バリトン歌手のおじいさんの事。昔の自分のステージと重ね合わせながら、鑑賞なさられた元フルーティストのおじいさん。ベレー帽を被り、素敵なスーツをこの日のために着用なさって、特等席で一曲ごとに大声で「ブラボー!」と叫んでくれました。「ありがとう!」と言って、何度も何度も握手したおばあさん。本当に忘れられない思い出ばかりです。
コンサートのあとに、おやつの時間を共にして、一緒にジュースを飲んだりお菓子を頂いたりするひと時もありました。

そのコンサート期間、ずっと「アカデミー」のレッスンも並行して行いました。真紀子は、仕上げのためにシャンタル・リウ先生に受講しました。先生はロン・ティボーコンクールの大賞受賞のピアニストですから、もちろん力はすごくある方なのです。でもとっても謙虚でいらして、お育ちが良いので品格があり、本当に心の温かい方で、素敵なフランス女性です。「ナンシー国際音楽フェスティバル」初日に彼女のコンサートがありましたが、いつも、柔らかいベールに包まれたような優しい響きで奏でる演奏にはうっとりさせられます。自然体で、どこも誇張する事がないのです。私たちの秋のCD制作についても、自分の事のように一生懸命になって下さっていますし、「あなたたちのCDの曲を聴いたら、もうみんな涙流すわね、本当に待ち遠しいわ!」と優しい言葉を掛けてくれるのです。13日には先生を囲んでの食事会もあり、和気あいあいと皆と楽しみました♪

チェロのオーギュスタン・ルフェーヴル先生はリヨン音楽院の教授でいらっしゃって、実は今まで直彰は全く面識がなかったのですが、噂だけで受講しました。日本でも何度か演奏旅行をなさられている方ですが、どんなレッスンをなさる方なのか、大変興味がありました。とても素晴らしいレッスンを展開して下さって、充実して、笑いが絶えない楽しいレッスンでした。人間的にもとても素晴らしい方なので感激しました!最初のレッスンから感じがいいし、素晴らしいご指導でした。コンサートからも音楽の素晴らしさが伝わってき、音楽的で音色にうっとりさせられました。特にフォーレがお得意で大好きな方ですので、私たちにとって最高の先生でした!フランスでは、超有名なモーリス・ジョンドロンに師事した方で、「モーリスは、ポッパーの「妖精の踊り」(超絶技巧の曲)よりもずっとサン・サーンスの「白鳥」の方が難しいとよく言っていたよ!」って話してくれましたが、本当に実感です。「白鳥」は、5月に他界しました祖父が大好きな曲だったので、綺麗な音で仕上げたいと思っています。
初日のレッスンが終わってから、「これはいいレコーディングが出来るね!CDが出来上がったら、絶対送ってね!」ともう自分の事のように喜んで下さるし、レッスンの最後には、必ず「ブラボー!今日のレッスン素晴らしかったよ!明日のコンサート頑張ってね!」って優しく声を掛けてくれるんです。私たちのレッスンの前にドイツ人の生徒がフォーレを弾いていた時の事です。先生は、フォーレの三連符はドイツ物のように正確に打ってしまってはダメで、「ターターター」とルバートが掛からないと、と注意していましたが、どうもピンとこない様子でした。感覚的に感じる事が出来ないと難しいのだと思います。私たちはフランスで学んでいて良かったな、と思いました。
直彰の方は、ルフェーヴル先生を囲んで、ナンシーの受講生宅でバーベキュー大会があり、夜中まで話が盛り上がってしまいました。本当に愉快な人が多くて、今考えても笑いが止まらなくなるような話もありました!

私たちは、人間的にも優しくて尊敬できる演奏家に見守られて勉強できたことは、本当に幸せだと思います。

ところで、このアカデミー受講者の中には、多くの国から参加していましたが、アゼルバイジャンのバクー(カスピ海に近いところ)から参加したピアニストもいました。大使館からの派遣者なのですが、「ナンシー国際音楽アカデミーは、室内楽の講習会なので、室内楽曲を沢山勉強して行きなさい。」と大使館の担当の方から聞いていたそうなのです。私たちのように、指定の申し込み用紙に記入したわけではなく、大使館側が優秀な人をヨーロッパの講習会に派遣するシステムだそうです!大変なんですね。
だから、ピアノのレッスンでも、シューベルトの「アルぺジョーネ・ソナタ」のピアノ部分だけを持ってきて、相手のチェリスト無しでレッスンをしなければならないので、先生も困っていらっしゃいました。今回チェロの受講生の中に、彼女の選曲した曲を勉強している人が1人もいなかったんです・・・。結局、図書館でピアノのソロ楽譜を借りて、後半はレッスンをしてもらっていましたが、わざわざ遠くから来たのにお気の毒だと思います。
フェスティバルは、確かに室内楽コンサートが多いですので、それで大使館の方も勘違いしたのかもしれませんね。
真紀子は1995年にバクーの作曲家の演奏依頼を受けて、パリのユネスコ大ホールでの「ロシア・シンポジウム」で数曲弾いた事がありましたが、とても歯切れの良い曲で、ダイナミックなところはやはりロシア音楽なんだな、と感じたのを記憶しています。

また、アメリカから来たパーカッションの人が室内楽を強く希望して、フルートの人と組みたいと思って、事前に練習して来たそうなのですが、パーカッションと組みたいというフルーティストが誰もいないので、凄い剣幕で怒っていました・・・。早口の米語でムキになって話すので、先生は、もう少し落ち着いて話して欲しいって助言していたけれど、それだけ真剣だったんだと思います。
遠くから参加する人は、色々難しいですね・・・。

今回のナンシーのフェスティバルは、スペインのフェスティバルの初日のようなアクシデントはありませんでしたが、今回の「ナンシー国際音楽フェスティバル」では、雨模様のために私たちの野外コンサートがあるかないかで揉めた事が一番の大きなハプニングでした。その前日まではずっと晴れ渡っていたのに・・・。
事務局が決定するまで、何か落ち着かない気分で、外の天気ばかり眺めていて、全然練習に身が入らないんです。こういう心境って嫌ですね・・・何もしていないのに、疲れてきちゃって。
2人で、「まだ降っているね、ダメかな?」「止んだみたいだよ、連絡くるかな?」とお互いに部屋を行き来するばかりで、練習どころではありませんでした。 もう一人のソリストに選ばれたハーピストのエヴァも同じで、私たちの部屋を行ったり来たりばかりしていたし・・・。

でも、ナンシーでは色々な体験をさせて頂きました!
そもそも一週間に一度のコンサートでも大変だと思っていた真紀子と直彰・・・。それが、8日から15日の8日間に野外がキャンセルになっても、5回のコンサートだったんです。もう本番続きで気の休まる暇がないっていった感じでした。
でも、後半になるとそれが、毎日の学校に通うのと同じ感覚で、自分たちのスケジュールのように体が動けるようになるのは不思議です。
もちろん疲れてはきますが、昨日の問題点をすぐ改良できる利点はあると思います。ただ、ビジネス的な感覚になってしまって、いつも最良のコンディションにしようと心がけているのは確かなのですが、多少マンネリ化してしまう傾向がありますね。

野外コンサートがキャンセルになったお陰で、その唯一の休日は観光の時間に使いました。丸一日楽しみました!
まず、スタニスラス広場に出かけ、雨が降っている時は、美術館、動物・熱帯魚博物館を見学しました。アール・ヌヴォーの作品も沢山見てきました。インド洋の熱帯魚はとても美しく、可愛かったです。

今回のもう一つの収穫は、ハープの音色と一週間過ごせたという事です。スペインでは、ギターの熱演に魅せられましたが、ソリスト仲間のハーピストは若手のフランス女性でした。リハーサルと本番の間の休憩時間に、ハープの仕組みや演奏の仕方など披露して教えてもらえて、個人的にお付き合い出来たことは嬉しかったです。ペダルが7つもあって、良く上手に操作できるものだと感心してしまいました。直彰はいつも替えの弦を4本ケースに入れています。ところがハープの彼女は、47本の替えの準備をしているんですって!大変ですね。黒い塗りのとてもシックでエレガントなハープでした。
彼女は長身のブロンドで、ハープを奏でる姿がなんともいえなく、音色プラス雰囲気が妖精のごとく素敵でした。別世界の方のようで・・・☆ このような方と共演できて嬉しかったです。
ハープを持ってくるのに、お母様が車でパリから運んだそうですが、ピアノは運ぶ必要がなくていいけれど、やはり自分の楽器で本番が出来る人たちは幸せだな、と思います。直彰がチェロを運ぶのを見ると、真紀子はいつも大変な思いをしなくて良かったと思うけれど、本番にはいつも直彰を羨ましく思ってしまいます・・・

アカデミーのディレクターの言葉も忘れられません。
「今回のソリスト3人の演奏を聴衆の皆さんは大変満足して下さいましたよ。新聞の批評も素晴らしかったので大変満足しています。演奏はハートでするんですよ。心が開いた演奏が周囲をも楽しませてくれるんです。本当にご苦労様!」
とてもとても嬉しい言葉でした。

本当に音楽家とは不思議な職業だと思います。結局、自分の持っている心の中の物を曝け出してしまって、それを聴衆たちが受け止めてくれるかくれないかはその人の自由なのですが、どんな子供でもご老人でも心さえあれば感じることが出来るのです。
今回の「ナンシー国際音楽フェスティバル」に参加して、人間の中に秘めたものを磨くためには、心の美しい人間にならなければ良い音楽は出来ないのだ、と痛感しました。とてもよい勉強をさせて頂きました。
本当にこのような幸せな日々を過ごさせてくれて有難う!!!

あと、フェスティバルの演奏会の事やレッスンの事などを細かく書いたら、この10倍もの長さに膨れ上がってしまいそうですので、この辺で日記を終わりにします。
あと5日で日本!母国日本も心から愛しています!