チェロとピアノのデュオは、耳によく馴染むけれど、演奏する側には多くの難問がある。
ショパンはピアノ音楽を専門にした作曲家だが、他の楽器ではチェロを愛し、ピアノとチェロが活躍する佳曲を残している。しかしあの天才にして、ピアノとチェロの音楽的バランスにはいつも苦心していた。
「レ・クロッシュ」の宇宿姉弟デュオの魅力は、2つの楽器の音楽的バランスに優れ、単に息が合っているというだけでなくて、相手の心理や習、長所や短所、音楽的欲求まで完全に理解し合っているところにあるだろう。
血は争えないし、同じ環境に育ち、音楽的なバックボーンを共有している利点は明白である。
それはどんな名手であれ、即席のデュオには不可なことにちがいない。
このアルバムは、豊かに響く伸びやかなチェロと華麗なピアノが心を合わせ、古今の名旋律を流麗に奏でている。
2人の自在な演奏、親密な呼吸が生きて、音楽の自然な流れを妨げることは決してない。
選曲の妙もあって、まさに「歌の翼に」乗っているようではないか。しかも二重奏曲だけでなく、ピアノ・ソロの名曲も鮮やかな演奏でしっかり収められている。
このCDは、誰もが手元において繰り返し聴きたくなる、大切な愛聴盤となることだろう。
青澤唯夫(音楽評論)